マシニングセンターの粗加工で、昔からよく言われる考え方があります。
「仕上げで使って切れなくなったエンドミルを粗加工に回す」
「粗加工だから多少切れなくてもいい」
「大径工具でガッツリ削れば早い」
「新品工具を粗加工に使うのはもったいない」
私も新人の頃は、そう教わりました。
当時はそれが普通だと思っていましたし、何の疑問も持っていませんでした。実際、元記事でもこの古い粗加工の考え方から話を始めています。
しかし、今は完全に考えが変わっています。
粗加工こそ、よく切れる工具を使うべきです。
理由は単純です。粗加工は加工時間への影響が大きく、切粉量も多く、工具にもワークにも一番負荷がかかる工程だからです。
切れない工具で粗加工すると、送りを上げられない。
送りを上げるとビビる。
切れないから熱が出る。
熱が出るから工具が傷む。
工具が傷むからさらに切れなくなる。
この悪循環に入ると、加工時間が伸びるだけではなく、仕上げ前のワーク状態まで悪くなります。
今回紹介するのは、私が小物〜中物ワークの粗加工で使いやすいと感じている、日進工具 無限コーティング パワーZエンドミル MSZ345です。
粗加工に「切れない工具」を使うと何が悪いのか
粗加工は、単に材料を荒く削り取る工程ではありません。
仕上げ加工の前に、どれだけ安定した状態を作れるかを決める工程です。
ここで摩耗したエンドミルや、切れ味の落ちた工具を使うと、次のような問題が起きます。
- 切削抵抗が増える
- 主軸負荷が不安定になる
- 加工音が荒れる
- 工具が逃げる
- ワークが熱を持つ
- 仕上げ代がばらつく
- 薄肉部が反る
- 仕上げ加工で寸法が安定しない
特に問題になるのは、熱です。
切れない工具は、材料を切っているというより、こすっている状態に近くなります。切削熱の逃げ場がなくなり、工具にもワークにも熱が残ります。
本来、切削熱の多くは切粉に持っていかれるのが理想です。ところが、工具が切れない、切粉が排出されない、切粉を再切削する。この状態になると、ワーク側に熱が残りやすくなります。元記事でも、熱による工具ダメージとワークダメージ、特に反りや加工硬化について触れています。
つまり、粗加工で古い工具を使うというのは、節約しているようで、実際には加工時間・工具寿命・仕上げ精度をまとめて失っている場合があります。
粗加工用エンドミルに必要な条件
私が粗加工用エンドミルを見るときに重視しているのは、主に次の4点です。
- 切粉をしっかり逃がせること
- 工具剛性があること
- 突っ込みや溝加工に対応できること
- 送りを上げても加工音が荒れにくいこと
粗加工では、工具の切れ味だけでなく、切粉排出性が非常に重要です。
切粉が逃げない工具で無理に送りを上げると、工具が材料を削っているのか、切粉を噛み込んでいるのかわからない状態になります。
特に小径エンドミルで深めに削る場合、切粉が詰まると一気に工具寿命が落ちます。最悪の場合は、工具折損です。
だから粗加工用エンドミルは、刃数を増やせば良いというものではありません。
刃数が多い工具は、仕上げや側面の安定には有利な場合がありますが、粗加工で切粉量が多いとチップポケットが不足しやすくなります。
その点、3枚刃エンドミルはバランスが良いです。
2枚刃より剛性があり、4枚刃より切粉を逃がしやすい。小径〜中径工具で粗加工するには、かなり使いやすい刃数だと感じています。
MSZ345の特徴
MSZ345は、日進工具の「無限コーティング パワーZエンドミル」です。

製品仕様としては、超微粒子超硬合金、ねじれ角45°、無限コーティング、3枚刃のエンドミルで、溝加工・突込み加工・側面加工・平面加工に対応する工具として掲載されています。
また、無限コーティングはTiAlN系をベースとしたコーティングで、公開情報では皮膜硬度Hv3,400、耐酸化温度1,100℃とされています。
この工具の良いところは、単純に「硬いコーティングだから長持ちする」というより、粗加工で必要な要素のバランスが良いところです。
私がMSZ345を評価している理由は、次の3つです。
- 3枚刃で切粉排出性と工具剛性のバランスが良い
- 突っ込み・溝加工・側面加工に使いやすい
- 小径からφ12までラインナップが細かく、加工形状に合わせやすい
元記事でも、MSZ345を「3枚刃」「大容量チップポケット」「突っ込み・溝加工が速い」「0.1mm刻みでφ12まで」といった理由で紹介しています。
MSZ345が向いている加工
MSZ345が特に使いやすいのは、次のような加工です。
| 加工内容 | 相性 | 理由 |
|---|---|---|
| 小物〜中物ワークの粗加工 | ◎ | 小径工具で取り回しやすい |
| ポケット粗加工 | ◎ | 切粉排出性を活かしやすい |
| 溝加工 | ◎ | 3枚刃で送りを上げやすい |
| 3D形状の荒取り | ◎ | 工具径を落としながら均一に追い込みやすい |
| 側面粗加工 | ○ | ae・apを管理すれば安定しやすい |
| 高硬度材の重切削 | △ | 適用硬度・条件確認が必要 |
| 大面積の平面荒取り | △ | 高送りカッターの方が有利な場合がある |
特に使いやすいのは、片手で持てる程度のワーク、小型部品、3D形状、ポケット形状、溝が多い部品です。
こういう加工では、大径工具で一気に削るより、小径の切れる工具で安定して荒取りした方が、結果的に早くなることがあります。
理由は、仕上げ代を均一に残しやすいからです。
大径工具で無理に荒取りすると、工具が入らない部分が残ります。そのあとに工具径を落として追い込み、さらに残りを削り、最後に仕上げる。こうなると、工程が増えます。
最初から適切な径のエンドミルで、形状に沿って均一な仕上げ代を残せば、仕上げ加工がかなり楽になります。
S50C・φ10の条件例
メーカー公開の推奨切削条件では、炭素鋼S50Cに対して切削速度90m/min、φ10の側面加工で回転数3,000min-1、送り速度900mm/minが掲載されています。
ここから計算すると、3枚刃なので1刃送りは約0.1mm/toothです。
現場で使う場合、私はこの条件をいきなり上限として使うのではなく、まずは基準条件として見ます。
例えばφ10でS45C〜S50C系の粗加工なら、考え方としては次のようになります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 回転数 | 3,000min-1前後 |
| 送り | F900前後から確認 |
| ae | 0.2D〜0.3D程度から |
| ap | 1.0D〜1.5D程度から |
| クーラント | エアブロー推奨寄り |
| 確認ポイント | 加工音、切粉排出、工具摩耗、ワーク温度 |
もちろん、これは機械剛性、ホルダ、突き出し、ワーク剛性、加工形状によって変わります。
特に注意したいのは、送りだけを見ないことです。
「F900で削れるか」ではなく、
- 切粉が逃げているか
- 工具が逃げていないか
- 加工音が一定か
- コーナーで負荷が上がっていないか
- 切粉を再切削していないか
- 仕上げ代が安定して残っているか
ここを見ます。
メーカー注意事項でも、機械剛性に応じた切込み調整、回転数と送り速度を同じ割合で調整すること、エアブロー推奨、切りくず排出への注意、剛性のあるチャック・機械、短い工具突き出しが示されています。
MSZ345を使うときの現場ポイント
1. エアブローはかなり重要
MSZ345は切粉をしっかり出せる工具ですが、切粉が勝手に全部逃げてくれるわけではありません。
特にポケット加工では、切粉が底に残ります。
切粉が残った状態で加工すると、工具は新しい材料ではなく、すでに削った切粉をもう一度噛みます。これが工具寿命を縮めます。
粗加工で工具寿命が短い場合、条件が悪いというより、切粉排出が悪いだけということも多いです。
まず見るべきは、回転数や送りよりも切粉です。
2. 突き出しは短くする
MSZ345に限った話ではありませんが、工具突き出しが長いと一気に条件が落ちます。
特に3枚刃の粗加工では、工具が逃げると加工音が荒れます。
工具が逃げると、壁面が倒れます。
壁面が倒れると、仕上げ代が不均一になります。
仕上げ代が不均一になると、仕上げ工具の負荷が変わります。
その結果、仕上げ面や寸法が安定しません。
粗加工は「どうせ後で仕上げるから適当でいい」ではありません。
仕上げが楽になる粗加工をする。
この考え方が重要です。
3. aeを欲張らない
粗加工で加工時間を短くしたいとき、つい径方向切込みaeを大きくしたくなります。
しかし、aeを増やしすぎると工具負荷が一気に上がります。
特にコーナー部ではエンゲージ角が増え、直線部より負荷が高くなります。直線では問題なくても、コーナーでビビる、コーナーだけ工具が傷む、ポケット隅で折れる。こういうトラブルはよくあります。
MSZ345を使うなら、無理にaeを大きくするより、aeを抑えてapを活かす方が安定しやすいです。
高効率加工寄りに使うなら、工具径の20〜30%程度から様子を見ると扱いやすいです。
4. 仕上げ代を均一に残す
MSZ345のような工具を使うメリットは、単純な荒取り時間の短縮だけではありません。
小径工具で形状に沿って荒取りできるため、仕上げ代を均一に残しやすいところにもメリットがあります。
これは3D加工やポケット加工でかなり効きます。
仕上げ代が均一だと、仕上げ工具の負荷が一定になります。
負荷が一定だと、加工面が安定します。
加工面が安定すると、寸法も出しやすくなります。
つまり、粗加工の良し悪しは、最終精度に直結します。
MSZ345が向かない加工
もちろん、MSZ345が万能というわけではありません。
次のような加工では、別の工具を選んだ方が良い場合があります。
大きな平面を一気に削る加工
大面積の荒取りでは、高送りカッターやチップ交換式工具の方が有利な場合があります。
特に剛性のある機械で、大きなワークを大量に削る場合は、ソリッドエンドミルよりチップ工具の方がコスト面でも有利です。
切粉が逃げない深いポケット
深いポケットで切粉が底にたまる加工は注意が必要です。
工具性能以前に、切粉排出が成立していないと工具は持ちません。
この場合は、エアブロー、クーラント方向、加工パス、ステップ、逃げ形状を見直した方が良いです。
ステンレスの突っ込み加工
メーカー注意事項でも、ステンレス鋼では不水溶性切削油、突込み加工ではステップ加工が推奨されています。
ステンレスは切粉が伸びやすく、熱もこもりやすいので、炭素鋼と同じ感覚で突っ込むと危険です。
ステンレスで使うなら、まずは側面加工や軽めの溝加工から様子を見る方が安全です。
粗加工に新品工具を使うのはもったいないのか
私は、粗加工に新品工具を使うことは、もったいないとは思いません。
むしろ、粗加工に切れる工具を使わない方がもったいないです。
粗加工で時間がかかる。
工具がビビる。
熱でワークが反る。
仕上げ代がばらつく。
仕上げで寸法が出ない。
測定と補正が増える。
最悪、作り直しになる。
ここまで考えると、粗加工工具をケチる意味はあまりありません。
もちろん、すべての加工で高価な工具を使う必要はありません。
大事なのは、工具代だけで判断しないことです。
見るべきは、工具代ではなく、トータルコストです。
- 加工時間
- 段取り時間
- 工具交換回数
- 測定回数
- 補正回数
- 不良リスク
- 仕上げ加工の安定性
この全体で見ると、粗加工に切れる工具を使った方が安くなる場面は多いです。
MSZ345はどんな人におすすめか
MSZ345は、次のような加工者に向いています。
- 小物〜中物部品の粗加工が多い
- ポケット加工や溝加工が多い
- 3D形状の荒取りが多い
- 仕上げ代を安定させたい
- 高送りカッターが入りにくい形状を加工する
- 工具径を細かく選びたい
- 粗加工の時間を短縮したい
- 摩耗した工具を粗加工に回す運用をやめたい
逆に、大型ワークの大荒取りが中心なら、チップ交換式工具や高送りカッターと比較した方が良いです。
MSZ345は、何でも最速で削る工具ではありません。
小径〜中径のソリッドエンドミルで、安定して速く粗加工するための工具です。
私はそういう位置づけで使っています。
まとめ|粗加工の考え方を変えると加工は安定する
粗加工は、ただ材料を削り取る工程ではありません。
仕上げ加工を楽にするための工程です。
その粗加工に、切れなくなった工具を使う。
これは一見コスト削減に見えますが、実際には加工時間、工具寿命、仕上げ精度を落としている場合があります。
MSZ345は、3枚刃、45°ねじれ、無限コーティング、突込み・溝・側面加工への対応という特徴を持つ、粗加工で使いやすいソリッドエンドミルです。
特に、小物〜中物ワーク、ポケット加工、3D形状の荒取り、均一な仕上げ代を残したい加工では使いやすい工具だと感じています。
粗加工こそ、よく切れる工具を使う。
これは単なる精神論ではありません。
加工時間を短くし、仕上げを安定させ、不良を減らすための現実的な考え方です。



