金属加工現場の大敵”錆(さび)”、加工直後は最も気を使います
加工後のワークを脱脂した場合、素手で触るだけで指紋の跡に錆が発生します
金属加工の大敵「錆」も、発生メカニズムを理解することである程度ふせぐことができるので、ボクが在籍した数社での実績や文献をもとに解説します
梅雨時期のワークに発生する錆問題
錆とは
まず、錆を理解する必要があります、ここでは主に鉄・鋼の錆について解説します
錆とは簡単に言えば鉄と空気中の酸素・水分が酸化還元反応(腐食)を起こし生成された酸化物等のことを言います
英語では “rust(ラスト)” といいます
錆発生のメカニズム
錆は化学反応
鉄の錆は酸化還元反応なので、発生するかどうかは電位とpHに依存します
鉄が水分に覆われることで鉄分子が一部イオン化し、酸素と水と反応することで赤錆が発生します
赤錆
赤錆は水の存在により、自然酸化によって生じます
赤錆は下地に保護作用が無いので錆は進行し続けます
黒錆
黒錆は自然発生することは無く人工的に形成させます、黒染めのことですね
黒錆は金属の表面に緻密な皮膜を形成するため、金属内部の腐食を食い止めます
鉄が赤錆によってぼろぼろになるのを防ぐことができます
ボクはキャンプが趣味ですが、キャンプ用の鋼のナイフを黒染めしています
紅茶(タンニン)と酢を混ぜた溶液で簡単に黒染めが可能です、簡易防錆処理です
錆が発生しやすい温度と湿度
鉄の場合、相対湿度60%以上になると鉄表面が水で覆われるためサビが発生することがあります
気温が上がると大気中の水分量が上がります、錆の発生は水分量に影響されるので高温・多湿が錆発生しやすい環境です
表面粗さによる錆びやすさ
錆の発生速度は、金属の表面積に比例するため、表面が粗いほど錆発生は早くなります
エンドミル側面で加工した加工面に比べ、エンドミル底面の加工面が錆びやすいのはそのためです
塩化物イオンによる反応
塩化物イオン(Cl−)は腐食の酸化還元反応には関与せず、不動態皮膜を破壊する作用があります、つまり錆を誘発します
塩化物イオン(Cl−)は血液など体液に含まれるため、脱脂したワークを素手で触ったり
ケガにより血液がワークに付着すると錆びるのはそのためです
錆対策(防錆)
温度・湿度管理が錆抑制の重要ポイント
ワークに水分を付着させないようにするには室温の管理が重要です
気温が高いほど空気中に含まれる水蒸気の量は多くなります
日中気温の高い時に湿気を吸い込んだ大気は、朝方が冷えると余分な水蒸気をはき出し結露が起こります
特に梅雨の時期は、夜間空調停止になどの急激な温度変化によって
ワーク表面に結露が発生し錆の発生要因を作ることになります
水分と酸素を遮断する
錆を防ぐには、金属表面が水と酸素に直接触れないようにすることが重要です
金属表面に保護膜を作り、水、酸素などを遮断します
錆発生を誘発する塩化物イオン(Cl−)の塩分、指紋、雰囲気ガスなどの侵入を防ぐためには防錆油の使用が有効です
防錆油を吹きかけても、ワーク表面に付着(結露)した水分を防錆油でコーティングすることは効果がありません
防錆油は、必ず水置換タイプを使用しなければいけません
量産工場で部品の大量錆被害の話をよく聞きます、原因は防錆油が水置換ではないことがほとんどです
防錆油をケチった結果大量の不良を発生させた無残な結果です
水置換防錆スプレーのメジャー製品はこちら
どちらの製品も水置換タイプです
腐敗したクーラントによる錆の発生
梅雨とは直接関係ありませんが、高温環境でのクーラント腐敗はワークの錆発生の原因になります
腐敗したクーラントから発生した硫化水素は金属を腐食させます
長時間加工や、夜間運転などを行うと削りたての新生面は硫化水素によって腐食する場合があります
長時間加工完了後、錆が発生している場合はクーラントを交換する必要があります
まとめ
梅雨時期の防錆対策
- 高温・多湿環境の改善
- 急激な温度変化を作らない
- 塩化物イオンを遮断する(素手で触らない)
- 水置換防錆油で水分・酸素を遮断する