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切削加工図面の熱処理

熱処理
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部品の切削加工図面にはさまざまな熱処理の指示があります。

専門で製造している工場なら、ラインに組み込まれたり、特定の熱処理のみですが、

我々試作・単品加工をメインとしているメーカーにはさまざまな熱処理の指示があります。

今回はボクが経験した熱処理と処理にかかわる前工程・後工程の内容を書きます。

本格的な技術内容は今回は省きます、一番下にオススメする熱処理の本を紹介しますのでおよみください。

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熱処理種類

熱処理には焼き入れ・焼き戻しをはじめ、多くの種類があります。

処理内容には加工法記号があり、JIS B0122において規定されています。

図面で見る熱処理をピックアップしました。

焼ならしHNR製造時に生じたひずみで不均一になった組織を均一にする
焼なましHA加工しやすいように柔らかくする(アニールともいう)
焼入れHQ鋼を変態点まで以上の温度まで上昇させ急冷して硬くする
高周波焼入れHQI高周波誘導電流を利用して局所的に焼入れする方法
炎焼入れHQF火炎焼入れともいい、炎を吹き付けて焼入れする方法
焼もどしHT焼入れによって硬くなった鋼に粘りや強靭性を持たせる
時効処理HZ温度を加え時間と共に性質が変化する時間変態を促進する方法
サブゼロ処理HSZ硬度を均一化させ、寸法を安定化させる処理
浸炭HC鋼の表面に炭素を拡散浸透させ耐摩耗性を向上させる処理
窒化処理HNT鋼の表面に窒素を拡散浸透させ耐摩耗性を向上させる処理
軟窒化HNTS窒化処理に比べ処理時間が短く硬化層が浅い

SS400とS45Cの熱処理

鋼材は熱処理をして硬度・強度など特性を向上させて使う「特殊鋼」と、処理を行わず圧延されたまま使用する「普通鋼」に分類されます。

SS材など熱処理規定の無い鋼材は強度があれば十分で、そのまま使用します。

SS400に焼入れしたら硬度は上がるのか」と聞かれることがあります。

回答:上がらないし意味ありません。

SS材には成分規定がありません、例えば炭素がどれくらい入っているかが分からないのです。

ロットによって各成分量がまちまちで、「前回硬度入ったから今回もお願い」なんて言われても保証できないのです。

更にSS材はあまり耐熱性も高くありません、溶接構造体で強度が必要な場合はオススメしません。

では、どうしたらいいかというと。

S45Cを使用してください。

S45CはSS400に比べれば若干値段は高いですが、成分保証されています。

炭素量は0.45%、焼入れすることで硬度を上げることが可能です。

強度も高く、溶接も可能なので、強度の必要な部品には最適です。

SS400と同等に入手しやすく加工性もSS400と同等、加工費もほぼ変わりません。

SS400の400は引っ張り強さで、400N/mm2が最低保証されています。

半導体製造装置のベースや、生産装置のブラケット、治具の仮受などはできる限り低コストでということで、アルミでは強度が足りない部品にSS400が使用されることは多いです。

ブラケットなど、とりあえず鉄でという場合はSS400

強度も硬さも必要で焼入れしたい場合、特に軸や可動部品はS45Cという基準で使い分けしてください。

特殊鋼の熱処理

特殊鋼というと、ボクが加工する材料で最も多いのがSCM

SCM(クロムモリブデン鋼)

通称””クロモリ”機械的性質が優れているほか、靭性もあり、自動車部品、ボルト、ナット類にも使われる。

自転車のフレームではハイグレード素材として使われ、薄肉でも強度が高く適度なしなりがあります。

SCM420は浸炭焼入れ焼戻しすることで、高い表面硬度と靭性を保つため、摩耗しにくく折れにくい特性を生かし、

エンジン部品(ロッカーアームやシフトフォークなど)に利用されます。

産業用機械の可動部品や金型の一部などにはSCM440が使われます。

SCM440は熱処理せずにそのまま使われることも多いですが、材料の状態で熱処理されているものもあります。

その場合の名称はSCM440M(調質HRC30)、加工後の熱処理が不要なので熱処理変形を気にする必要がありません。

熱処理変形

熱処理変形という言葉が出てきましたが、変形は熱による膨張収縮変態による寸法変化が合わさって生じます。

鋼に熱を加え赤らめた状態まで温度を高くすると、鋼は膨張します。

更に、加工時の残留応力や、合金の成分の不均一さが加熱時に変形に影響します。

そして冷却時、急激な熱変化で変形する量が大きくなります。

熱処理前の加工

部品図には、加工完了後の寸法指示がしてあるので、熱処理による変形を考慮した寸法で加工する必要があります。

しかし完璧に変形量を予測することは不可能で、形状とデータベースをもとに熱処理前寸法を設定します。

熱処理変形で嵌め合いや、幾何公差がハズレることがあるので、熱処理後に仕上げ加工します。

経験上ほとんどの鋼材は膨らむ傾向にあります、穴の場合は径が小さくなります。

板や角材の片方を削ったコの字形状はどちらかにそります。

反る方向はわかりません、熱処理前に加工した順番や穴の有無、

材料の方向性も影響しますが、コの字は内側に反ることが多いです。

例えばΦ10穴の場合0.05mm以内で径が小さくなります。

ボクの場合、SCM420浸炭焼入れ焼戻しの場合、Φ10H7は熱処理後に治具研磨で仕上げます。

熱処理後の加工

熱処理の内容にもよりますが、焼入れ鋼は硬度が高くHRC60なんて場合もあります。

HRC60というとハイスの刃物と同等ですので簡単に切削はできません。

熱処理された高硬度鋼を切削する場合は、高硬度用の工具を使います。

浸炭焼入れ焼戻しであれば硬度の入った浸炭層が通常0.5mm以下なのです、切削・研削の仕上げ代0.3程度をつけて熱処理後に仕上げです。

熱処理後の仕上げ方法

HRC40~60で以下方法で加工するのが一般的。

  • 高硬度用コーティング工具かCBNやPCD工具で切削
  • 研削
  • 放電加工

高硬度鋼への穴あけは困難なので熱処理前に加工します、高精度の場合は処理後に仕上げします。

穴あけやタップ加工は最も困難なので、熱処理前に仕上げます。

精度が必要な場合、雄ネジは熱処理前に加工、処理後に仕上げ研削、雌ネジは熱処理後高硬度用のスレッドミルを使います。

通常の部品は熱処理後にネジ加工することは少ないです。

平面度や平行度の平坦部仕上げは平面研削仕上げが一般的でが、ポケット部など砥石が入らない場所は加工できません。

穴は高硬度用インサートチップを使用したボーリング仕上げか、治具研削になります。

昔は焼入れ鋼の加工はコベルコのミラクルコートエンドミルしか無いといわれるほど信頼されていました

現在では各社から高硬度用がラインナップされています

自動車の燃費向上には、高度な熱処理技術と高硬度鋼加工技術が貢献しているのです

まとめ

小ロット・多品種生産における熱処理前加工と仕上げ加工は十分なデータが無いので、データベースの応用となります。

ですが、傾向は一定しているので予測は可能です。

案件ごとに処理前と処理後の測定データは一般公差部も含めて取得する必要があります。

完成品だけではなく、素材形状やミルシートも製品データとの紐付けも重要で、想定外の場合はそれらの情報も有効です。

熱処理屋さんの持っている情報も有効です、初めてのワークや処理の時は担当者とよく打ち合わせしてアドバイスを貰えれば不良・リードタイムは削減されます。

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