製造現場での品質管理やトレーサビリティ(追跡可能性)の確立は、顧客満足度の向上や生産効率の向上に欠かせません。本記事では、NC加工データを記録し、トレーサビリティを確保するマクロプログラムについて解説します。加工履歴を自動で保存する仕組みを導入することで、問題発生時の迅速な対応が可能になります。
1. 加工履歴管理の重要性
加工履歴を記録することで得られるメリットは次の通りです:
- 問題解決の迅速化:不良品の発生時、原因追及がスムーズに行える
- 再現性の向上:成功した加工条件を再利用し、効率的な生産が可能
- 顧客信頼の獲得:顧客からのトレーサビリティ要求にも対応できる
2. 加工履歴を記録するマクロの仕組み
NC装置によっては、加工データを保存する専用機能を持つものもありますが、マクロプログラムを使用すれば以下のような情報を簡単に記録できます:
- 加工時刻
- 使用した工具番号
- 加工時間
- 寸法測定結果
これらをデータファイル(例:サーバーやUSBメモリ上のCSV形式)に記録することで、履歴管理が容易になります。
3. プログラム例:履歴記録とログ出力
プログラム例:履歴記録マクロ
以下は、加工履歴をCSV形式で記録するプログラムの一例です:
O2000 (加工履歴記録プログラム)
#100 = 1.0 (製品ID)
#101 = 0.0 (加工時間初期化)
#102 = 0.0 (寸法測定結果初期化)
N1 G21 G17 G90 (ミリ単位、XY平面、絶対座標)
N2 G04 P5000 (加工スタートタイム計測:5秒待機)
#101 = #3002 (加工時間取得)
N3 T1 M06 (工具1選択)
N4 G01 X50.0 Y20.0 Z-10.0 F300 (加工実行)
N5 T99 M06 (プローブ工具選択)
N6 G65 P9810 Z[#102] (プローブで寸法測定)
#102 = #5063 (測定結果を変数に格納)
N7 (ログ書き込み)
G10 L52 P1 (外部記録モード切替)
(ファイル名例: /usb0/histry.csv)
G65 P9820 A#100 B#101 C#102 (製品ID、加工時間、測定値をCSV形式で出力)
N8 M30 (プログラム終了)
プログラムの動作説明
- 加工データの取得
- 加工時間はシステム変数#3002を使用。
- 寸法測定結果はプローブ測定で取得。
- データ出力
- G65 P9820でデータを外部ファイル(CSV形式)に出力します。
- 記録内容
- 製品ID、加工時間、測定結果の3項目が記録されます。
4. トレーサビリティの活用事例
事例1:不良品発生時の原因追求
製品IDと加工データを追跡することで、不良品の加工条件や使用工具を特定できます。
事例2:条件最適化
良品の加工条件を履歴から分析し、加工条件を最適化するフィードバックが可能です。
事例3:顧客要求への対応
顧客が製品に対して加工履歴を求めた際に、迅速に提出でき、信頼を得られます。
5. 実装時の注意点
- 外部記録の対応確認
- NC装置の外部出力機能(USBやサーバー接続)が有効か事前に確認してください。
- 記録データの管理
- 大量の履歴データは、定期的にバックアップを取り、必要に応じて削除することでストレージを確保します。
- データフォーマットの統一
- ファイル形式(CSVなど)や記録項目を標準化し、データの検索性を向上させましょう。
まとめ
加工履歴をマクロプログラムで記録することにより、トレーサビリティを確立し、品質管理を強化できます。これにより、顧客の信頼を獲得し、工場全体の生産性向上につなげることが可能です。
これで、基礎から応用まで5回にわたる「NCプログラムとマクロプログラム」シリーズは完結です。皆様の現場に役立つヒントがあれば幸いです。