マシニングセンターやNC旋盤のクーラントタンク内に溜まる切粉は、放置しておくと作業環境や機械の寿命に悪影響を及ぼします。その代表例が「硫化水素の発生」と「錆の発生」です。今回は、そのメカニズムを初心者にも分かりやすく解説します。
1. 硫化水素発生のメカニズム
硫化水素は、切粉に含まれる油分や微生物の分解作用が原因で発生します。以下、具体的なプロセスです。
- 切粉に付着した油分や有機物が分解される
- 切削加工時に使用されるクーラントは、防錆や潤滑のために油分を含んでいます。
- 切粉に付着した油分が、タンク内で酸素の乏しい環境にさらされると、嫌気性細菌(酸素を嫌う細菌)の繁殖を助長します。
- 嫌気性細菌が硫黄成分を分解
- クーラントや金属加工用添加剤には硫黄化合物が含まれている場合があります。
- 嫌気性細菌はこれらの硫黄化合物を分解して硫化水素ガス(H₂S)を発生させます。
- 硫化水素の悪影響
- 悪臭:硫化水素は「腐った卵」のような臭いがし、作業環境を悪化させます。
- 健康被害:濃度が高くなると作業者に頭痛や吐き気などの健康被害を与える可能性があります。
2. 錆の発生メカニズム
錆(酸化鉄)は、クーラントタンク内の環境によって発生します。以下の条件が揃うと錆が促進されます。
- 切粉が水分を保持
- 切粉は表面積が大きいため、クーラントの水分を吸収して保持します。
- 水分が溜まったまま放置されると、鉄や鋼材の表面が酸化されやすい状態になります。
- 酸素と鉄の反応
- タンク内の水分と空気中の酸素が反応し、鉄が徐々に酸化します。
- 特にクーラントが劣化して防錆効果が弱くなっている場合、錆が発生しやすくなります。
- 酸性環境の形成
- 嫌気性細菌の活動で発生した硫化水素や他の酸性成分がクーラントのpHを低下させ、酸性環境を作り出します。
- この酸性環境が鉄の腐食(錆)をさらに加速します。
3. 対策方法
硫化水素や錆の発生を防ぐためには、以下の対策が効果的です。
定期的な切粉の除去
- クーラントタンクに溜まった切粉を定期的に清掃し、嫌気性細菌の繁殖を抑えます。
クーラントの管理
- クーラントの濃度を適切に保つことで、細菌の増殖を防ぎ、防錆効果を維持します。
- クーラントを定期的に交換し、劣化を防ぎましょう。
エアレーション(酸素供給)
- タンク内に酸素を供給する装置を導入することで、嫌気性細菌の活動を抑えることができます。
バイオサイド(殺菌剤)の使用
- クーラントに添加することで細菌の繁殖を抑えます。
- 適切な使用量を守ることで効果を発揮します。
4. まとめ
切粉が溜まったクーラントタンクは、硫化水素や錆の発生源になる危険な場所です。これらを防ぐには、日々のメンテナンスと管理が欠かせません。クリーンな作業環境を維持することで、機械の寿命を延ばし、作業者の安全を確保しましょう。
ポイントは、「切粉を溜めない」「クーラントを管理する」こと!
簡単な手間を惜しまないことで、大きなトラブルを防げます。