クーラントの種類
汎用旋盤・フライス盤で加工するときは大抵の場合はクーラント使いませんよね。
使うとしてもハケで油を塗る程度だと思います。
NCフライスもクーラントはあまり使いません。
では、なぜマシニングセンターやNC旋盤は大量にクーラントをかけるのでしょう。
どういった加工でどのようなクーラントを選択するのか?
ボクも20年前初心者の頃は特に気にせず、先輩が段取り指示した通りに加工してました。
それをマネして同じように加工してました。
当時は油性クーラントを使っていたのでタップのもちは良かったけど、
チタンの穴あけは燃えたこともあります。
クーラントにも種類が多数あり、役割や性能も違います。
まずは、各種クーラントの概要を説明しましょう。
水溶性クーラント
字のごとく水溶性です。
エマルジョンタイプとソリュブルタイプがありますが、
エマルジョンタイプを使う工場は多いです。
理由はエマルジョンタイプは油なので、潤滑性能が高いためです。
油をベースとした原液で乳化剤が入っています。
乳化剤の作用で水に溶けるのでクーラントの見た目は牛乳のように白い液体です。
原材料は違いますが、例としてはマヨネーズも同じです
油分が多い分、潤滑油とも混ざりやすく、腐りやすいです。
潤滑性能が高いため、刃もちが良く、重切削まで対応します。
ソリュブルもだいたい同じなのですが、
こちらは乳化剤の量が多く水の量が多くなります。
透明~半透明の液色でさらっとしています。
冷却性能が高いため、アルミの切削や研削盤に利用されます。
潤滑性能はエマルジョンに比べ劣るため、タップやリーマーの加工にはあまりオススメしません。
ボクはソリュブルタイプをマシニングセンターとNC旋盤に使用しています。
タップやリーマーの工程はステンコロリンを使って豆腐にしています。
ソリュブルタイプは潤滑油と混ざらなく腐りにくいので,
定期的な交換の頻度がエマルジョンタイプに比べるととてもすくないので経済的です。
アルミが多かったり、数ものを加工しなけれれば、ソリュブルタイプをオススメします。
油性クーラント
そのまんま油です、文句なしに刃持ちが良く、タップやリーマーには最適です。
ですが、油のため粘度が高く冷却性が劣ります。
液体の摩擦が発生するため、噴射圧が高いと油温は上がり続けるので
高精度加工やアルミの加工には向きません。
機内外は汚れ、油煙が舞い環境や体には良くありません。
潤滑油と完全に混ざるため、長期間交換しないと油の性能はガタ落ちします。
それでも利点はあります、とにかく刃持ちが良い、
高回転向きの工具には全く向きませんが、タップやホブなどの低周速工具には最適です。
エアブロー
最初の頃、エアブローは切粉を吹き飛ばすだけが目的と思っていました。
エアブローは確かに潤滑性能はありません、
ですが、冷やしすぎず、適度に冷却する性能がとでも高いのです。
油や水分が無いので切粉はきれいに吹き飛んでいきます。
加工温度というのはかなりの高温で、800℃になることもあります。
あまり高温になると刃先は軟化するので切削に耐えられなくなり異常摩耗が発生します。
クーラントで冷却することになりますが、水溶性クーラントだと冷やしすぎが起こります。
高温から一気に冷やすと「サーマルクラック」という現象が起こります。
サーマルクラックとは切削熱による膨張と急冷の繰り返しによる疲労破壊のことです。
エアブローは適度な加工温度を維持できる優れたクーラントです
オイルミスト
油性切削油をミスト状にして吹き付ける方法です。
殆どの場合、水溶性・または油性のクーラントとは別に取り付けられたシステムです。
油を使うので、性能は油に近く冷却性能が劣ります。
油が舞うのでミストコレクタを搭載した機械でなければ使用できません。
そうでなくても機内に充満するので機械のドアを開けるタイミングを間違えば大量のミストを吸引することになります。
焼入れ鋼の加工には良く利用されます。
MQL
セミドライとよばれることもあります。
圧縮エアーにわずかな油を混ぜて吹き付ける方法です。
使用感はエアブローと変わりありませんが、刃持ちが良く油も少量のため経済的です。
エアブローと油性のいいとこどりです、油の量がとても少ないので、ミストを吸うリスクも少ないです。
冷却性能は水溶性に比べれば劣ります。
オススメはドリルの内部給油で使う方法です。
水溶性クーラントと併用できればお互いの弱点がカバーできます。
超硬ノンステップボーラーでMQLを使えば、本当にノンステップで加工可能です。
加工の種類ごとのクーラント
エンドミル
炭素鋼・合金鋼(S45C/SCM420/SCM440)粗加工用の高効率エンドミルはエアブロー
仕上げとボールの3次元加工は水溶性クーラント。
アルミはもちろん水溶性、ソリュブルタイプがベスト。
ステンレスは油性が良いけど、環境・コストトータルで水溶性が良いです、エマルジョンタイプがベスト。
インコやチタンは高圧スピンドルスルーなら水溶性エマルジョン、
セラミックエンドミルならドライで真っ赤に火花散らして削りましょう。
MQLなら仕上げ加工は面粗さがとても良くなります。
冷え方と潤滑のバランスが良いですね。
ドリル
油性が良いといわれますけど、水溶性がダントツ冷却性が高い。
深穴は特に、冷却・潤滑・切粉の排出が重要。
内部給油も水溶性エマルジョンが良いです。
MQLが使えるなら内部給油で使ってください、オススメです。
タップ
タップは量産じゃなければステンコロリンスプレーかけましょう。
量産でどうしてもタップに合わせて油使いたい場合は大昭和精機でスポットオイラーというツーリングがあるのでそれを使ってください。
フライスカッター
エアブローです。
バリバリ削っているトコロにクーラントかけたらチップが欠けます。サーマルクラックですね。
液体のクーラントと違い、穏やかに冷却するため刃先の急な温度変化も抑制します。
加工にはある程度の熱が必要な場合もあります。
鉄系は、加工による温度をうまく使います。加工硬化による切粉の分断です。
長い切粉は機械に絡み、ワークの傷や機械可動部のトラブルを引き起こします。
切粉を短く分断するためには、切粉を加工熱により硬くし脆く分断しやすくコントロールすることもが有効です。
切込みと送りで切粉の厚みを調整し、主軸回転数で周速を上げることで加工熱は上げることができます。
エアブローは切粉を吹き飛ばしてくれるので、ワークに切粉が絡みにくく、切粉を巻き込むことで起こるトラブルも回避できます。加工後のワーク脱着も楽です。
アルミのフェイスミルなら水溶性でも良いです。
加工面粗さが向上しますし、冷却効果のため寸法も安定します。
焼入れ鋼の加工
焼入れ鋼の切削はある程度の熱が必要です。
熱が必要なので水溶性や油は基本NGです。
超硬エンドミルも焼入れ鋼に対応(耐熱)したコーティングを使用します。
クーラントはオイルミスト・MQL・エアブロー。第一推奨はエアブローです。
焼入れ鋼用コーティングでメジャーなのは三菱マテリアルのミラクルエンドミルです。
ミラクルエンドミルは発売当時はコベルコの製品でした。
他メーカーが追い付けない超高性能コーティングで、
ミラクルエンドミルは「コベルコ」と呼ばれていました。
現在では三菱マテリアルが販売していますが、
当時を知るベテランは今だに「コベルコ」と言ってます。
もしくはCBNとオイルミスト or MQLの組み合わせです。
現在焼入れ鋼の仕上げの主流はCBNです。
難削材(耐熱鋼)の加工
インコネルやチタンは加工熱を外に逃がしにくい性質があります。
そのためワークには熱がたまり高温になり、
エアブローでは冷却が追い付かず、刃先は熱に負けて異常に摩耗します。
削り始めの切れているときは、意外にサクッと削れます。
しかし、熱がこもり刃先が摩耗すると
摩擦熱の発生に拍車がかかり一気に工具破損します。
ドリルやタップは常に刃先は被削材に接触しているので刃先は冷却されません。
したがって水溶性クーラント使いますが、通常の0.7Mpa程度のクーラント圧では冷却は間に合いません。
難削材を超硬工具と水溶性クーラントで削るには、高圧でクーラントをかける必要があります。
クーラント圧は2Mpa~7Mpaは必要です。
高圧でかけるだけではなく、高精度に必要な場所にかける必要があります。
旋削も同様で、チップのすくい面と切粉の間、逃げ面に高圧でかけます。
クーラントの役割
これまで説明した通り、クーラントには大きく分けて3つの役割があります。
エンジンオイルの機能3要素と同じですね。
潤滑
冷却
清浄
どれか一つでも欠けると工具の性能は発揮されません。
クーラントの性能は新品の状態が最もベストな状態ですが、
日々のメンテによって性能は維持できます。
水溶性は簡単にチェック可能です、濃度計を使い指定の濃度に保ちます。
最もメジャーなのはアタゴの濃度計です、こちらは油脂メーカも推奨しています。
まとめ
アルミ・炭素鋼・合金鋼のエンドミル加工なら迷わず水溶性クーラント
ドリルは水溶性クーラント、可能なら内部給油MQL
単発のタップ加工はステンコロリン(タッピングペースト・油性)
鋼の加工をフライスカッター(フルバック・フェイスミル)で加工するときはエアブロー
クーラントを使う目的は精度・刃持ちを向上させ、加工時間を短縮するため
鋳物はまた別な要素でクーラントを検討します。