前回の記事では、エンドミルのリード角が加工結果にどのような影響を与えるかを解説しました。今回はさらに踏み込み、リード角と切削条件(切削速度、送り量、切込み深さなど)の関係を掘り下げます。適切な切削条件を選ぶことで、加工効率や工具寿命を最大化する方法をご紹介します。
1. 切削条件とは?
切削条件は以下の3つの要素で構成されます。これらはリード角と相互に作用し、加工結果を左右します。
- 切削速度(Vc):工具が材料に接触する速度(工具外周速度)。
- 送り量(F):工具の1回転ごとに進む距離(または時間あたりの移動量)。
- 切込み深さ(ap、ae):工具が材料に食い込む深さ(軸方向・径方向)。
2. リード角と切削条件の相性
リード角と切削条件の組み合わせを適切に選ぶことで、加工の安定性や仕上がりが向上します。
リード角が大きい(30°~45°)場合
特性:切削力が分散しやすい。
- 切削速度:中~高め。リード角が大きいと切削抵抗が分散されるため、工具寿命を確保しつつ高い速度で加工できます。
- 送り量:低~中程度。大きいリード角は切削面が広がるため、高すぎる送り量は面粗さの悪化や振動を招く可能性があります。
- 切込み深さ:浅め(軸方向)。大きなリード角は工具の剛性が低下する可能性があるため、深い切込みには向きません。
リード角が小さい(0°~15°)場合
特性:切削力が集中しやすい。
- 切削速度:中~低め。切削力が集中するため、工具負荷を軽減する目的で速度を下げることがあります。
- 送り量:中~高め。剛性が高く、送り量を多めに設定しても安定しやすい。粗加工に最適。
- 切込み深さ:深め(軸方向)。集中した切削力が厚みのある切込みにも対応可能。
3. 実際の切削条件例
例1:アルミニウムの精密仕上げ加工
- リード角:45°
- 切削速度:200~400 m/min
- 送り量:0.02~0.05 mm/tooth
- 切込み深さ:0.5~2 mm
ポイント:高い切削速度と浅い切込みで、滑らかな仕上げを実現。バリが発生しにくい加工条件。
例2:鋼材の粗加工
- リード角:10°~15°
- 切削速度:80~150 m/min
- 送り量:0.1~0.3 mm/tooth
- 切込み深さ:3~8 mm
ポイント:切削力を一点に集中させることで、効率的な荒取りが可能。
例3:プラスチックのバリ抑制加工
- リード角:30°
- 切削速度:300~500 m/min
- 送り量:0.05~0.1 mm/tooth
- 切込み深さ:1~3 mm
ポイント:中程度のリード角と高い切削速度で、表面仕上げを重視しつつバリを抑える。
4. 注意点:振動と切削力のバランス
リード角と切削条件の不一致は、以下の問題を引き起こします:
- 工具のビビリ(振動)
- 工具寿命の短縮
- 加工面の粗さの悪化
対策として、以下を実施すると効果的です:
- 振動が大きい場合:送り量を下げる、またはリード角を小さくする。
- 工具寿命を延ばしたい場合:切削速度を下げる、適切なコーティング工具を選ぶ。
- 加工面を改善したい場合:切削条件を下げる(速度・送り量)、リード角を増やす。
5. まとめ:最適化のための実験と調整
リード角と切削条件の関係は、加工材や機械特性、工具の剛性によっても異なります。一般的な指針をもとに加工を開始し、試行錯誤を重ねながら最適条件を見つけることが成功の鍵です。
次回の記事では、**加工現場で使える「トラブルシューティングと改善案」**について解説します。リード角の設定や切削条件を変更した際に起こる具体的な問題とその対処法を詳しくご紹介します!